労働保険の年度更新を徹底解説!手続きの流れや注意点とは
毎年多くの企業が対応する必要がある労働保険の年度更新。
この手続きは労務業務の中でも重要な業務の1つで適切に行う必要があります。
しかし、手続きが複雑であるため、初めての方や慣れていない方にとって戸惑うことも少なくありません。
そこで本記事では、労働保険の年度更新手続きに関する基本的な流れと注意すべきポイントを分かりやすく解説します。
目次
1. 労働保険の年度更新とは
6.手続きのタスクを簡単に管理できる「mfloow(エムフロー)」
7.まとめ
1.労働保険の年度更新とは
労働保険とは、「労災保険」と「雇用保険」の総称です。
労災保険は業務上の事故や病気に備える保険制度で、雇用保険は失業した場合の給付や育児や介護による休業中の給付の他雇用対策に充てられる保険制度です。
労働保険の保険料率は定期的に改定が行われ、従業員の賃金総額に応じた保険料額を事業主が納付します。
年度ごとの保険料の確定・申告・納付の手続きを「労働保険の年度更新」と言います。
具体的には、以下の3点が年度更新の主な内容になります。
- 従業員の前年度の賃金総額の確定・申告
- 新年度の概算保険料の申告・納付
- 1、2を基に前年度保険料の精算
このように、労働保険の年度更新は従業員の賃金総額から前年度分の確定・新年度分の概算保険料額を正しく算出するための重要な手続きです。
2.労働保険には年度更新が必要
労働保険料の年度更新の3ステップ
労働保険料の年度更新では、「賃金の集計」と「確定保険料・概算保険料の算出」、「前年度保険料との精算」の3つのステップがあります。
まず、前年度(4月1日から3月31日)の各月の、労災保険の対象従業員、雇用保険加入従業員について賃金総額を集計します(step1)。
次に、step1で集計した賃金総額を元に確定保険料を算出、原則、同じ金額を元に新年度の概算保険料を算出します(step2)。
この繰り返しを毎年行っていくと、前年に払った概算保険料と確定保険料に差が発生しますので、差額の精算も同時に行います(step3)。
労働保険に加入している限り、毎年この更新手続きを行う必要があります。
※詳細は次章、「労働保険の年度更新の手続きの流れについて」で解説
労働保険の年度更新の手続きはいつ行う?
労働保険の年度更新の手続き期間は毎年6月1日から7月10日までと定められています。
例えば、令和6年度の場合、令和6年4月1日から翌年3月31日までの1年間が令和6年度の保険年度となり、この1年間の従業員の賃金見込総額を令和6年6月3日から7月10日までの間に概算申告する必要があります。
申請期限までに申告書を労働局や労働基準監督署に提出しないと、延滞金が課される可能性がありますので、期限に注意しましょう。
また、申請期限が過ぎた後でも申告は受け付けられますが、保険料の確定時期が遅れてしまうため、早めの手続きが望ましいです。
3. 労働保険の年度更新の手続きの流れについて
労働保険の年度更新の手続きは以下の流れで行います。
労働基準監督署から労働保険番号、労働保険料率、申告済概算保険料額、法人番号が印字された書類が送られてきますので、内容に誤りがないことを事前に確認しておきましょう。
Step1 賃金の集計
保険年度の最終給与が確定した後に、前年の賃金の集計を行います。
・各月の、労災保険、雇用保険の対象従業員について、対象人数と賃金総額を集計します。
・出向者の受入元や受入先との情報共有、雇用保険対象外従業員の集計除外などの対応も必要です。
・従業員一人ひとりの賃金額(労災・雇用保険対象の有無)をリスト化するとよいでしょう。
Step2-1 確定保険料の算出
集計した賃金に基づき、確定保険料を算出します。
一般拠出金の算出も忘れずに行います。
Step2-2 概算保険料の算出
4月1日から翌年3月31日までの概算保険料を算出します。
概算保険料の算出は、確定した賃金総額を新年度の見込額として使用します。
但し、大幅な変更(50%減以下または50%増以上)は別途の計算が必要です。
Step3-1 差額の精算を行う
申告書に記載されている申告済概算保険料額と確定保険料額に差額が発生した場合は、過不足額の精算を行います。
Step3-2 申告と納付を行う
申告書の記入が終わったら、納付回数を決めます。
概算保険料が40万円以上(ただし、労災保険のみ、雇用保険のみ成立している場合は20万円以上)の場合、年3回に分けて納付することができます。
Step3-1の差額は第1回目(または全期)の納付時に精算を行います。
以上の流れで労働保険の年度更新の手続きを完了させる必要があります。期限までに漏れなく手続きを行うことが大切です。
【令和6年雇用保険料率】
参照:厚生労働省 『令和6年度の雇用保険料率について』
申告書類の確認
労働保険の年度更新の際には、申告書類の確認が重要です。主な申告書類は以下の通りです。
【申告書類】
- 確定保険料
- 一般拠出金算定基礎賃金集計表(提出は不要です。申告書作成のために使用します)
- 労働保険概算
- 確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書
労働保険料の計算は、従業員ごとの給与支払額を把握し、申告書類に正確に記入する必要があります。
給与支払額には賞与や手当なども含まれますので注意が必要です。
記入内容に誤りがないか、入念に確認したうえで申告書を提出します。
また、申告書の提出期限も遵守する必要があります。
遅延すると延滞金が発生する可能性があるため注意が必要です。
労働保険料計算と労働保険申告書の作成
労働保険料の計算には、雇用保険料と労災保険料の2つがあります。
雇用保険料の計算では、下記の対象者の賃金額を集計します。
- 常用(フルタイム)労働者
- 短時間労働者で雇用保険の資格のある人
- 役員で雇用保険の資格のある人(ただし、兼務役員の役員報酬部分は除く)
- 出向者は出向元(主たる雇用主)で雇用保険の加入のため集計に含める 反対に受入出向者の賃金は除外する
- 雇用保険加入に該当しない学生
インターンなどの賃金は除外する労災保険料の計算は、 賃金の支払いを受けている全ての従業員を対象として行う - 代表権・業務執行権を有する役員は対象外 ただし、中小企業の場合は、特別加入の制度あり
- 出向者が出向先で指揮監督を受けている場合は除外 反対に受入出向者の賃金は含める
計算の結果を申告書に記入し、電子申請や郵送などで提出します。
電子申請なら24時間いつでも申告できるのが便利です。
労働保険料の納付は、申告と同時に行うか、後日、納付書により納付することができます。
申告と納付
申告書類の準備ができたら、次は申告と納付の手続きです。 申告は、電子申請か書面申請のいずれかで行います。
電子申請であれば「e-Govの電子申請・納付システム」から、書面申請であれば金融機関、所轄の労働局または労働基準監督署に提出します。
金融機関への提出の場合は、あわせて納付を行います。
なお、口座振替を利用している場合は、金融機関への提出はできません。
納付は、電子納付か口座振替・納付書で行います。
電子納付は「e-Govの電子申請・納付システム」から行い、口座振替は金融機関に事前手続きが必要です。
納付書は発行された納付書を利用して金融機関で払い込みます。
【令和6年度 労働保険料の納期限】
参照:厚生労働省 『保険料・一般拠出金の納付の方法 - 申告書の提出』
4. 労働保険の年度更新における注意点
賃金の種類・期間に注意する
労働保険料の計算には、賃金の種類と期間がポイントとなります。賃金には、次の種類があります。
<賃金の種類>
- 給与
- 賞与
- その他名称に関わらず「労働の対償」として支払うすべてのもの(定期券・回数券など現物支給の通勤手当も含む)
<対象期間>
保険年度中に支払いが確定した賃金は、算定期間中に実際に支払われていなくとも算入する必要があります。
賃金締め日が月末締めでない場合や、従業員区分(正社員とパート従業員など)によって締め日が異なる場合は、注意が必要です。
例1)月末締め・翌月20日払い
→前年5/20支給~4/20支給の給与額を集計(この期間の賞与を含む)
例2)正社員毎月15日締め・当月末払い。パート従業員月末締め・翌月末払い
→それぞれ対応する締日で別々に集計
正社員:前年4/末支給~3/末支給
パート従業員:前年5/末支給~4/末支給
対象となる賃金の種類と期間を正しく把握することが、労働保険料の適正な申告につながります。
従業員の入退社や休職などにも注意が必要です。
給与や賞与の締め日・支払い日によっては、対象期間が異なるケースもありますので、十分ご確認ください。
出向者や雇用保険加入対象外の従業員がいる場合
労働保険の年度更新の際、出向者や雇用保険加入対象外の従業員については以下の点に留意が必要です。
①‐1出向者
- 労災保険(出向先に指揮監督権がある)は、出向先で保険料計算を行うため、賃金額から除外する。出向先に賃金額の情報を提供する。
- 雇用保険は、出向元(主たる雇用主)で保険料計算を行う。
①‐2受入出向者(①‐1と逆のパターン)
- 労災保険(出向先に指揮監督権がある)は、出向先で保険料計算を行うため、賃金額を出向元から提供してもらい賃金額に含める。
- 雇用保険は、出向元(主たる雇用主)で保険料計算を行うため、賃金額には含めない。
②雇用保険加入対象外の従業員
- 昼間学生(学生インターンなど)、短時間労働者(週20時間未満のパート従業員など)、季節的に雇用される者(4か月以内、週30時間未満の従業員)などは、雇用保険対象の賃金額から除きます。ただし、労災保険は対象となります。
65歳以上の人を雇用している場合
2017年1月1日より雇用保険の加入条件の年齢制限が撤廃となり、2020年度以降は保険料の免除措置も終了となりました。
65歳以上の従業員も高年齢被保険者として加入の対象となります。
適用要件は次のとおりです。
- 65歳以上の従業員
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込がある
また、2022年1月1日から「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が新設され、65歳以上の従業員が複数の事業所で働くことで特定の要件を満たす場合、加入の申出を行った従業員は、「マルチ高年齢被保険者」として雇用保険加入者となります。
適用要件は次のとおりです。
- 複数の事業所に雇用される65歳以上の従業員
- 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上
- 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上 高年齢被保険者もマルチ高年齢被保険者も雇用保険料の徴収対象となるため、年度更新の対象となります。
このように、年度更新手続きでは注意すべき点がいくつもあります。
日頃からの賃金台帳を正しく作成・整理しておくことも重要です。
労働保険の年度更新を遅延した場合
労働保険の年度更新は法定の期限内に行う必要があります。遅延すると延滞金が発生しますので注意が必要です。
<延滞金の計算方法> 延滞金 = 納付すべき労働保険料 × 延滞金率(年14.6%) × 延滞日数/365日
延滞金率は年14.6%と高額です。延滞日数が長くなれば延滞金額も大きくなります。例えば、100万円の労働保険料を30日遅延した場合、以下のように延滞金が発生します。
100万円 × 14.6% × 30/365日 = 約1万2千円
延滞金を避けるためにも、年度更新の期限を必ず守りましょう。遅延する恐れがある場合は、早めに手続きを進めることをおすすめします。
5. 労働保険の年度更新における注意点
電子申請・電子納付が便利
労働保険の年度更新にあたり、電子申請・電子納付を活用することで、大幅な業務効率化が図れます。
電子申請は次のようなメリットがあります。
- 24時間いつでも申請可能
- 申請書類の記入ミスや記入漏れを防げる
- 申請状況がリアルタイムで確認できる
一方、電子納付のメリットは以下のとおりです。
<電子納付のメリット>
- 金融機関の窓口に行く手間が省ける
- 納付日の前日23時59分まで納付可能
- 支払履歴がWebで確認できる
このように電子申請・電子納付を利用することで、労働保険の年度更新における事務負担を大幅に軽減できます。
利用を検討されることをおすすめいたします。
なお、資本金が1億円を超える法人など特定の法人は電子申請が義務化されています。
手続きのタスク管理を正確に行う
労働保険の年度更新には、多くの手続きが必要となります。これらの手続きを適切に管理することが重要です。
具体的には、以下の点に留意しましょう。
- 手続きの期限を事前にスケジュール管理する
- 担当者を明確に定め、進捗管理を徹底する
- 必要な書類や資料を一元管理する
期限や担当者が不明確だと、手続きの遅れやミスにつながる恐れがあります。
手続きを一覧化し、進捗状況を管理するのが有効です。
このように手続きのタスク管理を正確に行うことで、労働保険の年度更新を円滑に進められます。
6.手続きのタスクを簡単に管理できる「mfloow(エムフロー)」
労働保険料の年度更新など、煩雑かつ膨大なタスクが発生する手続き業務。
「mfloow(エムフロー)」はそんなタスク管理をはじめ、手続き業務を簡単に一元管理をすることができます。
「mfloow(エムフロー)」とは
入退社や異動、産休・育休など、従業員が働く上で発生する従業員の「ライフサイクル」手続きを一元管理できるSaaSです。
手続き業務で発生しがちな「タスク漏れによる遅延」「連携ミス」「業務の属人化」を防ぎ、シームレスな情報の共有と蓄積を実現し、タスク管理に伴うストレスからの解放を目指しています。
サービスサイト:https://www.mfloow.com/
7. まとめ
労働保険の年度更新は、事業主にとって重要な義務となります。
遅延すると延滞金が発生するなど、手続きを怠るデメリットが大きくなります。
年度更新の手続きは毎年同時期に発生するため、期限を管理するタスク管理が重要になります。
提出書類に漏れがないよう、確認を怠らずに進めましょう。