人的資本の情報開示とは 必要な対応やポイント、効率化を徹底解説!
2023年3月期決算以降、大手企業約4,000社(金融商品取引法第24条「有価証券を発行している企業」)を対象に自社の人材戦略や社内環境整備方針などを開示する義務が発生します。
開示に向けて人事や労務は、社内の従業員情報を収集・分析することが必要です。
開示のタイミングだけでなく、毎月のデータ集計、更新、入力する手間も発生し、人事や労務にとっては大きな負担になることが考えられます。
この記事では「人的資本の開示」の必要な対応やポイント、効率化の方法などを解説します。
目次
5.まとめ
1. 人的資本の情報開示とは
人的資本の情報開示とは、自社の人材情報を社外に公表することです。
本章では、人的資本開示について概要を解説します。
(1)そもそも人的資本とは
「人的資本」とは個人が持つ能力、才能、知識や経験、資格などを「資本」として扱う考え方です。
人的資本に投資することで、従業員一人ひとりの能力が上がり、企業に利益をもたらし、その結果企業の成長に繋がるという考え方が世界中で広く浸透してきました。
また、近年ICT化が進むにつれ改めて「人にしかできない業務」が注目されるようになり、人的資本の価値向上が重要となっています。
(2)人的資本の情報開示とは
2023年3月期決算以降、大手企業約4,000社(金融商品取引法第24条「有価証券を発行している企業」)を対象に自社の人材育成方針や社内環境整備方針などを開示する義務が発生します。
対象企業は、事業年度終了後の3か月以内に多様性に関する指標として「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」などの情報を有価証券報告書の「従業員の状況」に記載し、財務局および金融庁を通じて内閣総理大臣へ提出する必要があります。
参照:金融庁「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ」
https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sustainability-kaiji.html
2.人的資本の情報開示の義務化
人的資本の情報開示の義務化について、本章では下記の2つを解説します。
- 人的資本の情報開示が義務化になった背景
- 人的資本の情報開示に必要な対応
(1)人的資本の情報開示が義務化になった背景
・「人的資本」の考え方の変化
これまでは、人材に費やした費用は財務経理上「コスト」と捉えられ、企業にとっては利益を減らす要因として抑制される傾向にありました。
しかし、最近では企業の成長や企業価値を向上させるのは人的資本を含めた無形資産だという考えが広まり、財務情報だけでなく人的資本やビジネスモデルなどにも注目をするステークホルダーが増えてきました。
・ESG投資への関心の高まり
ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に取り組んでいる企業へ行う投資のことを指します。
人的資本はこのESG投資の中の「社会(Social)」に含まれます。近年SDGsの考え方が広まったこともあり、投資家を含むステークホルダーは投資先を決めるのに財務情報だけでなく、企業のESGやSDGsの活動にも注目するようになりました。
そのため、企業側にとっては人的資本の情報開示の重要性が高まっています。
・欧米の流れを受けて日本でも義務化
米国では、2020年8月にSEC(米国証券取引委員会)が米国の上場企業に対して人的資本の開示を義務化しました。
欧州では2014年から非財務情報開示指令で社員と従業員に関する情報開示が義務付けられました。
この欧米での流れを受けて日本でも人的資本の開示義務へと踏み込みました。
参照:株式会社日本経済研究所 「人的資本の情報開示に関する国内外動向~海外動向を踏まえた日本の議論との対比~」 https://www.jeri.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/20220922_%E7%89%B9%E9%9B%86_SDGs%EF%BC%8F%E7%94%B0%E4%B8%AD%E6%A7%98.pdf
(2)人的資本の情報開示に必要な対応
・課題を洗い出し、目標達成までの道のりを示す
企業として今後どのような経営戦略を進めるのかしっかり目標を立てましょう。
そして、その目標を達成するにはどのようなことが課題となり、その課題を解決するためにはどのような人材が必要で、人的資本にどのくらい投資する必要があるのかストーリーを組み立てながら整理しましょう。
企業として今後どのような経営戦略を進めるのかしっかり目標を立てましょう。
そして、その目標を達成するにはどのようなことが課題となり、その課題を解決するためにはどのような人材が必要で、人的資本にどのくらい投資する必要があるのかストーリーを組み立てながら整理しましょう。
・過去、現在、未来の情報を定量的に数値で示す
自社が取り組んだ人的資本の施策に対してのビフォーアフターを数値で示せると、課題をいかに改善できたのかステークホルダーにとって分かりやすい指標となります。
また、今後の人的資本に関する戦略も数値で示すことで、企業価値がどのように向上していくのか将来像もイメージしやすくなります。
・自社ならではの情報を示す
ステークホルダーが求めている情報は何かを念頭に置き、魅力的に感じてもらえるような情報を開示しましょう。
自社の強み弱みを整理する、他社と比較する、独自性と比較性の双方から魅力のある情報を示せるようにしましょう。
また、人的資本の望ましい開示項目として設定されている7分野19項目に沿って開示する情報を整理するのもいいでしょう。
3. 人的資本の情報開示に必要な7分野19項目
2022年8月に、内閣官房の非財務情報可視化研究会が策定した「人的資本可視化指針」では、人的資本の開示項目として開示が望ましい7分野19項目があります。
参照:内閣官房 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf
(1)人材育成
人材育成の開示項目は、リーダーシップ・育成・スキルと経験の3項目です。
開示事項として、経営戦略の目標を達成するために、どのように人材を育成するのか、1人当たりの研修時間や費用、人材開発の効果などが求められます。
(2)エンゲージメント
エンゲージメントとは「従業員満足度」のことを指します。
従業員がやりがいを持って働けているか、職場環境や仕事内容に満足しているか、従業員満足度の状況と、それを高めるための施策などの情報を開示します。
従業員満足度を調べられるサービスも最近では普及しており、その結果を開示情報として利用することも考えられます。
(3)流動性
流動性分野の開示項目は、採用・維持・サクセッションの3項目です。
具体的には、離職率、定着率、採用や離職のコストなどの数値の開示を求められます。
人材を定着させるために実施した施策などを示すのもいいでしょう。
(4)ダイバーシティ
ダイバーシティ分野では、ダイバーシティ、非差別、育児休業が開示項目として挙げられます。
指標も多様で、属性別の従業員・経営層の比率、男女間の給与の差、正社員・非正規社員の福利厚生の差、育児休業等の後の復職率・定着率(男女別)などがあります。
近年のSDGsやESGの考え方の広がりや、企業のリスクマネジメントの点からも重要視される項目です。
(5)健康・安全
健康・安全分野の開示項目は、精神的健康・身体的健康・安全の3項目です。
労働災害の発生件数・割合、死亡数のほか、安全衛生に関する施策など企業の健康・安全に関する情報の開示が求められます。
従業員の心身の健康が守られているかこの項目で測られます。
(6)労働慣行
労働慣行の開示項目は、労働慣行・児童労働と強制労働・賃金の公正性・福利厚生・組合との関係に関する情報です。
企業がしっかり従業員と公正な関係を築けているかを示す項目です。
最低賃金が守られているか、職務に対して適正な賃金が支払われているかの他に、福利厚生の内容や種類の開示などが求められます。
(6)コンプライアンス・倫理
コンプライアンスとは法令遵守のことを指します。
ハラスメントの実態調査や対応措置、内部通報制度の有無などコンプライアンスに関する取り組みの他、差別事例の件数・対応措置、業務停止に関する事柄や苦情の件数・種類などの情報が該当します。
これらの取り組みはリスクマネジメントにも繋がり、法令遵守はもちろん、社会的な規範や倫理観に則した企業活動ができているかなどが見られます。
4. 人事労務の各種手続きを効率化する方法
今後、人的資本の情報開示を求められる企業は毎年の開示に向けて準備が必要となります。
エクセルやスプレッドシートで管理している企業も多いですが、データの収集・分析に多くの時間を割く上に、誤った情報を開示してしまった場合訂正報告書を提出することになります。
弊社が提供する、従業員ライフサイクル一元管理ツール「mfloow(エムフロー)」では、従業員情報をインサイトとして自動で集計、データ化、グラフ化することが可能です。簡単に従業員情報を管理し、適切な情報を開示していきましょう。
△インサイト画面 登録データをもとに従業員データを自動生成(デモ画面)
自動で取得できる情報:
月別雇用形態別従業員数推移、全従業員数、平均年齢、平均在籍期間、部署毎従業員数、男女別従業員数、管理職比率、女性管理職比率、年別平均在籍期間、平均女性年齢、平均男性年齢、平均管理職年齢、平均女性管理職年齢など
mfloow(エムフロー)とは
入退社や異動、産休・育休など、従業員が働く上で発生する従業員の「ライフサイクル」手続きを一元管理できるSaaSです。
手続き業務で発生しがちな「タスク漏れによる遅延」「連携ミス」「業務の属人化」を防ぎ、シームレスな情報の共有と蓄積を実現し、タスク管理に伴うストレスからの解放を目指しています。
サービスサイト:mfloow
5. まとめ
「人的資本」の考え方は時代の流れとともに今後より重要視されるでしょう。
開示を求められる企業は社内のデータを収集し、分析し、開示に向けての準備を整えていきましょう。
また、開示が求められていない企業においても人的資本を高めることに力を入れていくことで採用や社会的なイメージが今後変わっていくと考えられます。
「自社には関係ない」とは思わず、企業価値の向上や社会貢献に向けて「人的資本」について少しずつ取り組んでいくことをおすすめします。